ARTS記者会見〜今後の方針について〜の概要

     日 時 :平成13年5月15日(火)14:00〜15:00
場 所 :アルカディア市ヶ谷 6F 霧島(東)






1.挨 拶   代表理事 新谷 雄二

 3月末に東京高裁と大阪高裁はいずれも、ゲームソフトの中古販売に関して合法判決を下しました。結論を導く論理構成に若干の違いは見られるものの、10年以上にわたる頒布権論争に一定の終止符を打った意味で、この両高裁の判決は画期的なものであったと言うことができます。
 しかし、判決後、ゲームはおろかDVDの中古販売に至るまで、堰を切ったように中古ビジネスが急増する動きが出てきたため、一部の報道では、メーカーの立場に配慮し、それをあたかも産業の危機であるかのような見方が出てきております。

 しかし一方、このような事態に至った最大の責任は、販売店の努力を顧みようとしなかった一部のメーカーの暴走と、それをミスリードした著作権団体にあることを冷静に見る必要があります。
私たちARTSはかねてより、中古ビジネスが問題視されるゆえんは、一部のメーカーによるソフトの販売政策の貧困さに端を発しており、その解決に向け、ゲームソフトの流通政策の見直しを強く求めてきました。

 ゲーム業界は1983年のファミコン発売以来、中古売買を新品市場を補完するものとしてこれを受け入れ、メーカーと販売店が一致して産業の振興に務めて参りました。その関係が一変したのがプレステの発売であったことは、皆様もご存知の事であります。中古ビジネスへの締め付けを初めとする販売店への強圧的な姿勢は公取の摘発を誘発し、ゲーム業界はそれを契機に、メーカーと販売店の関係が一気に緊張関係に至るという異常な事態を招いてしまいました。それを憂慮した販売店が96年12月、大同団結してARTSを結成し、健全な市場の回復を図った際に、一部のメーカーは新品の供給を武器にその組織の切り崩しを露骨に行い、ARTSの話し合いを求める声に対しては訴訟という形で答えました。ARTSは、不毛な著作権論争を排し、メーカーと販売店があるべき流通政策を討議することで健全な関係が回復できるはずだ、とメーカーに話し合いの場を求めましたが、産業の実態を知らないコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の無用の介入によって長期の裁判闘争を招いてしまったのであります。

 従って、今回の高裁判決は当初から予想されたきわめて妥当な判決であって、これを不当判決と叫ぶのは、自らの失態を覆い隠そうとするACCSのポーズに過ぎません。特にこの点を強調して、皆様のご理解を求めたいと思います。
 この裁判に関しましては、メーカー側がこれを受け入れず即刻上告いたしましたので、ARTSは中古問題につきましては最高裁の判断を待ってその対応を示すことと致しました。何故なら、先ほど申し上げましたように、中古売買が問題視される根幹にはメーカーの販売政策があり、そのことの意味をご理解頂けない限り、これ以上の協議は難しいと考えているからであります。

 むしろ今、早急に取り組まなければならないのは、閉塞感が漂うゲーム業界におきまして、いかに多くの新品ソフトを売り、かつての隆盛を取り戻すかであります。そのため私たちは、ARTSプランを作成し、新品市場の活性化に取り組むことと致しました。
 圧倒的多数のソフトメーカーが意味の無い裁判闘争という事態を排し、私たち販売店と一緒に市場の活性化に取り組むことを希望しております。その声に応えるためにも、1日も早く、かつての健全な協調関係を回復すべく、幾つかの提案をさせて頂きます。(3.ARTSプラン参照)
 

2.「中古ソフト裁判高裁判決に流通に与える意義」  理事 赤田 和博

T.東京・大阪両高裁はメーカーの権利(頒布権)を否定し、中古売買を合法としました。

  東京―ゲームソフトは頒布権のある「映画の著作物の複製物」ではない。
  大阪―大量複製物であるゲームソフトの頒布権は第一譲渡で消尽する。

・ 法律解釈の仕方に相違がありますが、いずれも大量複製物で流通するソフトに頒布権を否定する内容で、ビデオやDVDの中古売買にも拡張される画期的な判断です。
・ 大手メーカーの主張は著作権法の不備を突いて中古売買まで頒布権が及ぶという世界的にも例のない無謀な主張ですが、判決はいずれも財産処分権を優先した消費者、販売店にとって当然の権利を認めた落ち着きのよい判決であります。
・ もし大阪地裁判決のように、アニメ風動画を理由に消尽しない頒布権を認めたならば、ゲームソフト中古に限らず液晶で動画を使ったオーディオ・家電品・車まで流通のすべての段階と中古売買に許諾権が発生しかねず、大変な混乱を招くことになります。

U.両高裁判決はARTSの主張に沿うもの 

・ 法律解釈が主要な論点ですが、流通実態についてはメーカー側がコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)が“著作権審議会への意見書”を証拠提出しました。
・ 販売店側はARTSがユーザーアンケート・販売データをもとに報告書(配布資料他)で主張を展開しました。声高な大手メーカーに比べ、ユーザーの声は小さなものですがユーザーの意思は販売データに最も顕著に現れることになります。
・ 以下主な争点について双方の主張と裁判所の判断の比較を行ってみます。

(1)実質貸与論について

ACCSの主張――中古売買は劣化しないデジタル著作物が転々流通する「譲渡」形式を持った「貸与」である。

ARTSの反論――
・ 「劣化しない」が意味を持つのは複製を重ねた時だけであり、ゲームソフトは複製できず、媒体としては劣化しやすい著作物である。
・ 全体として新品販売数の40%が中古販売されているだけであり、「転々流通」は誇大な表現である。
・ 中古売買はユーザーが任意に「売り」と「買い」を決める「譲渡」であり、「貸与」と混同すべきでない。
・ テレビゲームが発売されて15年間、複製もないのにレンタルが許諾されていないことこそ問題である。

裁判所の判断――
・「著作権者は、著作物又はその複製物を自ら譲渡するに当たっては、著作物の利用の対価を含めた譲渡代金を取得することができ、また、著作物の利用を許諾するに当たっては、著作権料を取得することができるのである」(大阪p.95)と譲渡代金と利用許諾代金を区別して対価徴収の機会を認めています。
・「前者の売却と後者の購入とは別の物品について行われている上、いずれも所有権移転行為であることはいうまでもない」(大阪p.116)と実質貸与論をしりぞけています。

(2)損害論について
 
ACCSの主張――中古販売本数分新品が売れたら2,325億円になり、その金額が損害である。
 
ARTSの反論――
・ 新品販売と中古売買は「下取り効果」、「試体験効果」、「評判形成効果」、「客層拡大効果」という相互補完関係を持っている。
・マクロな価格論として、消費者は買取価格を原資に、売買差額で購入している。中古禁止は購入価格の引き上げとなり、新品販売自体の減少につながる可能性が高い。
・ 消費者の80%はテレビゲーム価格を高いと感じている。ゲーム離れを食い止めるには中古売買の容認はもとより、廉価版の拡充・レンタルの開始を含めたゲーム価格の引き下げが必要である。
 
裁判所の判断――
・ 「新品の購入代金の少なくともその一部が,前に購入した中古品の売却代金によって調達されることも少なくなく,中古品の売却代金が新品の需要を喚起している面もあることが認められ」(東京p.54)と、新品・中古の相互補完関係を  認めています。
・ 「著作物の利用の対価を含めた譲渡代金を取得することができ、また、著作物の利用を許諾するに当たっては、著作権料を取得することができるのであるから、」「著作権者がその後の流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないということができる」(大阪p.95)と二重利得を明確に否定しています。

(3)投下資本回収論について
 
ACCSの主張――平均制作費が9.5億円かかり、映画と同等の回収機会保護が必要である。
 
ARTSの反論――
・ 試算によると対象ソフトのソフト収入は海外を含め52億円となり、制作費9.5億円は18%に過ぎない。コストに見合う回収が行われている。
・ 販売店の利益率は減少している。PS用ゲームソフト価格の29%程度がハードメーカーに配分されているため、利益配分としては他業界に例をみない利益のハードメーカー集中が行われていることのほうが問題である。中古売買は本質的に「ユーザー間取引」であり、新品高価格への批判の面を持っている。
・ 中古売買にメリットがあるならば、ソフトメーカーが参入することが可能である。自由参入が保証されている。
・ 新品の売上の低迷は中古が原因ではなく、ソフトメーカーが直販制による販売先の絞込みや、需要変化を無視した価格硬直性、販売促進の欠如が原因である。

裁判所の判断――
・ 「頒布権は、著作権者に投下資本に見合った対価の取得を一般的に保証するために認められた制度ではない」(東京p.53)と投下資本回収論を退けています。
・ 「各パッケージに中古販売を禁止する旨が記載されているが、」「販売の効力(所有権移転等の効力)を法律上否定できないことは明らか」(大阪p.115)と、中古撲滅キャンペーンも否定しています。

(4)産業育成論について
 
ACCSの主張――国際競争力の強いゲームソフト産業を保護することが国益につながる。
 
ARTSの反論――
・ テレビゲーム市場は15年来中古売買とともに成長してきた。一部のメーカーが中古を敵視し始めたのはSCEの市場参入からである。SCEが価格維持、中古規制、転売禁止という違法行為を行ったのは周知の事実である。
・ ゲーム産業が成長力を回復するには、ユーザーの声に耳を傾け自由競争による「より安く」、「便利に」ゲームを楽しめるように流通上の諸問題を解決することが重要である。
・ ゲームユーザーの90%、3,000万人が中古売買に直接間接的に関与している。ARTSに寄せられた250人の「ユーザー・販売員の生の声」を裁判所に報告した。

裁判所の判断――
・ 「譲渡等を行う都度著作権者の許諾を要するということになれば、市場における自由な流通が阻害され、著作物又はその複製物の円滑な流通が妨げられて、かえって著作者の利益を害する結果を来たし」(大阪p.94)と述べて、 
・ 「所有権の絶対と自由契約を内容とする自由な商品生産・販売市場の維持、保護は、右社会公共の利益の大きな部分を占めるものであり、現代資本主義市場経済の下における著作権の保護は、自由な商品生産・販売市場の発展のうちにその実現が保障される関係となっている。」(大阪p.96)と、著作物を商品化して対価をえる権利の保護は利用者の所有権の絶対と自由契約を必須条件としています。この洞察はACCSのような著作権至上主義者には到底理解し得ないものですが、著作者と利用者の権利関係を明確に位置付けた個所であるといえます。

 以上のようにACCSの主張はことごとくしりぞけられて、両裁判所の判断は論旨においてARTSの主張に沿うものであります。
 ARTSは「所有権の絶対と自由契約を内容とする自由な商品生産・販売市場の維持、保護」という両高裁の理念を尊重して、新品・中古売買を含めたテレビゲーム業界の活性化に向けて努力したいと考えています。
 

 配布資料
  ・ 大阪乙57(東京甲54) 「テレビゲーム市場の実態」
  ・ 大阪乙58(東京甲55) 「甲第12号証について」
  ・ 大阪乙89(東京甲89) 「ユーザー・販売員(店)の生の声」
 *裁判及び審判に関する資料のうち 判決文・双方の準備書面・ARTS作成の報告書はすべてARTSホームページ(http://www.arts.or.jp/)の「裁判報告」で公開しています。
 
 

3.ARTSプラン     理事 金岡 勇均

<現状について>
・ 中古による損害を訴えるメーカーのほとんどが好業績を上げているのに対して、小売店側は非常に悲惨な利益状況にある。
・ TVゲーム市場は既に成熟している。周辺の競合市場(インターネット、iモード)は多様な価格とサービスでユーザーを取り込んで、急成長をしている。一方で、TVゲーム市場は高成長期の硬直化した流通政策をメーカー主導でとり続けている。
  
 以上のような現状により、TVゲーム市場は以下のような状況を招いている。
   @価格の硬直化、A販売促進能力の低下、B中小ソフトメーカーの販売不振
  殊にABに関しては小売店の利益の圧縮による余力の低下が原因である。

 このような現状を打破するためには、
  (1)メーカーとのパートナーシップの再構築する。
  (2)メーカーとともに市場の活性化を図る。

<ARTSプラン>
 小売店として市場活性化のため、メーカーとのパートナーシップの再構築とソフトの販売機会拡大、ユーザーサービスの充実を目指すポジティブなアプローチを試みてみたい。

(1) 柔軟な販売政策の試行
・ 商品の品揃えのリスクをメーカーと分担し、新作ソフトの販売機会の拡大を最大限に図っていく。
・ メーカーとのパートナーシップを前提に長期的視野に立ち、店頭におけるユーザー育成等を多面的に展開していく。
・ 中小ソフトメーカーの商品の店頭販促を最大限に協力していく。
・ レンタルやRSS(レベニュー・シェアリング・システム)などのシステムの導入によって、メーカーがより市場に参入しやすい形を作り、競合市場と対抗していけるサービスの充実を図っていく。

(2) ゲーム振興基金の創設
 中小ソフトメーカーの仕入れ促進とインディーズ系の市場参入を支援するため、ARTSは「ゲーム振興基金」を創設する。1店舗あたり月間5000円程度の積み立てを行う。
 出来るだけ早期に開始することとし、今年7月からの徴収をメドとする。

(3)ゲーム博物館創設の呼びかけ
 過去に発売された全てのソフトを収蔵する「ゲーム博物館」の創設を提唱する。ゲームの進化が一目で把握できることは当然であるが、世代や技術の習熟度に応じて、過去のソフトでも充分、市場に通用することを立証し、将来的には店舗を通じたネット販売の仕組みにも活用していきたい。