第三、頒布権の限界―消尽について
〜中古ソフト問題・東京訴訟「原告側準備書面」〜

一、頒布権に関する議論の国際的動向

 著作者に頒布権を認めるかどうかの議論は国際的にもなされてきているが、流通過程に無制限に権利を及ぼす頒布権を認めるものはない。
 まず、ベルヌ条約は映画の著作物に関してのみ頒布権を認めている(注一‥ベルヌ条約第一四条〔映画化権・上映権〕、第一四条の二〔映画の著作物の著作権者の権利〕)が、頒布権の適用は第一頒布に限定されており、再頒布には及んでいない。また、上映を目的としない提供には頒布権は及んでいない。
 また、一九九六年一二月に成立したWIPO(世界知的所有権機関)著作権条約六条(1)(注二)は、一般的頒布権を認めたが、国内やEUなどの域内における第一頒布によって国内や域内で頒布権が消尽すること(以下単に「国内消尽」という。)が最低限の前提となっている。
 被告がゲームソフトについて国内消尽さえもしない頒布権を主張するのは、頒布権に関する国際的議論から見て、異説と言わざると得ない。

1、ベルヌ条約における頒布権

 ベルヌ条約では一九四八年のブラッセル改正時に映画の著作物に関してのみ頒布権を認めている。一般の著作物についてまで頒布権を拡大する提案は一九四八年のブラッセル改正時、一九六七年のストックホルム改正時になされたがいずれも否決されている。

(一)頒布権は第一頒布に適用されるのみで、その後の再頒布には及ばない。
 ベルヌ条約における映画の著作物に関する頒布権は最初の公衆への頒布行為に適用されるのみであり、いったん頒布された後の再頒布には及ばない。すなわち、WIPOにおけるベルヌ条約議定書の検討のための事務局文書では、「この規定の頒布権とは著作物の著作物の最初の公衆への頒布行為に適用されるのみであり、いったん頒布された後の再頒布には及ばない(BCP/CE/I/3 パラ 123,124)」と説明されており(平成七年二月著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ検討経過報告―マルチメディアに係る制度上の問題について―四六頁)、ベルヌ条約上頒布権は第一頒布に限定されることを当然の前提としている。このことはベルヌ条約議定書専門家委員会の第三会期の議事録(BCP/CE/III/2-III パラ 13)における次の記載でも確認されている。
 「 ベルヌ条約が頒布権(a right of distribution)について規定しているのは、映画の著作物として翻案された作品と映画の著作物そのものだけに関してである。(第一四条一項及び第一四条の二、一項)。しかし、条約の英語版と仏語版には差異がある。英語版では、「distribution」という語が用いられているが、仏語版では「miseen circulation」という表現が用いられている。英語の「distribution」は二通りに解釈できる。すなわち、第一回目の頒布だけか、以後の一切の頒布をも合わせ意味するか、である。しかし、「miseen circulation」(「流通に置くこと」)は、第一の頒布のみを意味する。この関係で留意すべきなのは、同条約の第三七条一項(c)の下で『多数の言語版の解釈上意見の違いがある時は、仏語版が優先する』ということである。」
 また、このことは、著作権研究二〇号五六頁で、当時(一九九三年五月)の文化庁著作権室長の木谷雅人氏の次のような発言でも裏付けられている。すなわち、
 「 提案では、まず「ベルヌ条約現行テキストの下において、第一頒布及び頒布目的の輸入についての許諾権を与えることは、複製権の当然の帰結として義務付けられているものであることを宣言すること」とあります。その説明として、映画の頒布権規定(ベルヌ条約一四条一項)は第一頒布権を意味し、それは他の著作物についても当然認められるものを確認的に規定しているにすぎないとしております。
ベルヌ条約上、頒布権(ディストリビューション・ライト)という言葉が入っているのは映画だけであってほかのところには入ってないわけですが、ここで言う頒布権とは、第一頒布権、流通に置く権利を意味しているものであってその後の頒布を含むものではないということです。その論拠として、ベルヌ条約の英文と仏文を参照して、英文ではディストリビューション・ライトですが、フランス文では、mise en circulation(流通の場に置く)という書き方になっていること、ベルヌ条約の正文は英文、仏文の両方なのですが、解釈に疑義があるときは仏文の正文によるとなっていることを挙げています。」
としている。
 以上のとおり、ベルヌ条約における映画の著作物に関する頒布権は第一頒布のみに及び、いったん頒布された後の再頒布には及ばないことは明らかである。

(二)頒布権は上映を目的としない頒布権には及ばない。
 上映目的でない映画の複製物の頒布には頒布権は及ばない。すなわちWIPOが一九七八年に発行した逐条解説(和訳一九七九年)は、ベルヌ条約一四条に関し九三頁で「映画はもちろん上映のために製作される。」とし、九四頁では「映画を上映のために提供できる国を制限し(頒布権)」とし、ベルヌ条約一四条の二に関し九八頁では「頒布権(上映のための提供)」と規定しており、上映目的でない映画の頒布はそもそも同条項の予定する範囲にないことを明らかにしている。
 すなわち、映画であっても現在のビデオカセットのような劇場で上映する目的ではなく家庭内で鑑賞する目的のための譲渡をコントロールするようなことはもとより想定されていなかったのである。ましてや、個人の家庭内使用がよりいっそう明らかなゲームソフトにおいてをや、というべきである。
 以上のとおりベルヌ条約では映画の頒布権の適用は第一頒布に限定されており、再頒布には及んでいなし、上映を目的としない提供には頒布権は及んでいない。我が国の著作権法は当然のことながらベルヌ条約を前提に、条約上の義務として映画の著作物に関する頒布権を認めている。このことは先にも引用したが、立法に事務当局として関与した加戸守行氏の「実態的には、日本の場合映画の配給権という形での商慣行が成立しており、そういった映画の分野に存在する商慣行としての配給権イコール二六条の頒布権という発想に基づいて、十分詰めないままで条約上の義務だからこれだけは、書いておこうということであったのではないかと思います。」との発言(コピライト二五周年記念特集号昭和六〇年三月「転換期における著作権制度の課題と展望」九頁)に如実に表れている。我が国の著作権法においてベルヌ条約を前提として、条約上の義務として規定された映画に関する頒布権は特段の事情がない限り、ベルヌ条約上の映画に関する頒布権と同様第一頒布に限定され、再頒布に及ばないものと解すべきであるし、上映を目的としない提供には頒布権は及ばないと解すべきである。

 (注一)ベルヌ条約
  第一四条〔映画化権・上映権〕
   (1)文学的又は美術的著作物の著作者は、次のことを許諾する排他的権
     利を享有する。
    (i )著作物を映画として翻案し及び複製すること並びにこのように翻
      案され又は複製された著作物を頒布すること。
    (ii)このように翻案され又は複製された著作物を公に上演し及び演奏
      し並びに有線により公に伝達すること。
   (2)文学的又は美術的著作物を原作とする映画の作品を他の美術形式に
     翻案することは、その映画の作品の著作者の許諾の権利を害するこ
     となく、原作物の著作者の許諾を必要とする。
   (3)前条(1)の規定は、適用されない。
  第一四条の二〔映画の著作物の著作権者の権利〕
   (1)映画の著作物は、翻案され又は複製された著作物の著作者の権利を
     害することなく、原著作物として保護されるものとし、映画の著作
     作物について著作権を有する者は、原著作物の著作者と同一の権利
     (前条に定める権利を含む。)を享有する。
   (2)(a)映画の著作物について著作権を有する者を決定することは、保
       護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。
     (b)もっとも、法令が映画の著作物の製作に寄与した著作者を映画
       の著作物について著作権を有する者と認める同盟国において
       は、それらの著作者は、そのような寄与をすることを約束した
       ときは、反対の又は特別の定めがない限り、その映画の著作物
       を複製し、頒布し、公に上演し及び演奏し、有線で公に伝達
       し、放送し、他の方法で公衆に伝達し並びに字幕を挿入し及び
       吹替えをすることに反対することができない。
     (c)(b)に規定する約束の形式が(b)の規定の適用上書面による契
       約(これに相当する文書を含む。)によるべきかどうかの問題
       は、映画の著作物の製作者が主たる事務所又は常居所を有する
       同盟国の法令によつて決定される。もつとも、その約束が書面
       による契約(これに相当する文書を含む。)によるべきことを
       定める権能は、保護が要求される同盟国の立法に留保される。
       この権能を行使する同盟国は、その旨を宣言書により事務局長
       に通告するものとし、事務局長は、これを他のすべての同盟国
       に直ちに通報する。
     (d)「反対の又は特別の定め」とは、(b)に規定する約束に付され
       たすべての制限的条件をいう。
   (3)(2)(b)の規定は、国内法令に別段の定めがない限り、映画の著作
     物の製作のために創作された脚本、せりふ及び音楽の著作物の著作
     者並びに映画の著作物の主たる制作者については、適用しない。そ
     の法令において(2)(b)の規定をその主たる制作者について適用す
     ることを定めていない同盟国は、その旨を宣言書により事務局長に
     通告するものとし、事務局長は、これを他のすべての同盟国に直ち
     に通報する。

2、WIPO著作権条約における頒布権

 一九九六年一二月に成立したWIPO著作権条約六条(1)では、一般的頒布権を認めているが、国内及びEUなどの域内における第一頒布によって国内や域内で頒布権が消尽すること(以下単に「国内消尽」という。)が最低限の前提となっている。
 同条(2)では「(2)この条約のいかなる規定も、著作物の原作品又はその複製物について、著作者の許諾を得て最初に販売又はその他の所有権の移転が行われた後に(1)の権利が消尽する条件を締約国が定める自由に、影響を与えるものではない。」と定めている。これは、消尽の条件、すなわち国内消尽に留まるか、あるいはそれに加え国際消尽まで認めるかの条件を自由に定めることができるとしただけで国内消尽さえもしない一般的頒布権を定める自由を想定しているものではない。すなわち一九八九年のベルヌ条約議定書専門家委員会創設からWIPO著作権条約締結にいたる議論において、一般的頒布権を認めるに当たって第一頒布によって消尽することは当然の前提とされたが、著作物の複製物の並行輸入などに関して輸入をコントロールしたい国が、消尽の範囲について国内に限定すべきであると主張し、国際消尽を認めることについて反対したり、同じことであるが輸入権(国際消尽しない頒布権と見ることもできる。)の創設を求めたのである。頒布権が国内消尽に加えて、国際消尽するとの点については、結局一致を見なかったため(すなわち、国内消尽までは一致したが更にそれに加え国際消尽もするとの点までは一致しなかったため)WIPO著作権条約六条(2)では各国法にその決定を委ねたのである。各国はWIPO著作権条約六条(2)により消尽する条件(国内消尽のみかそれに加え国際消尽までするか)を定めることができるが、全く消尽しない頒布権を立法することは想定されていない。
 以上の通り、WIPO著作権条約においても少なくとも頒布権は国内消尽するものとされており、各国は場合により国内消尽に加え国際消尽を定めることも可能となっている。
 なお、WIPO著作権条約の頒布権について文化庁国際著作権室の解説(コピライト一九九七年一月号「解説 WIPO新条約について」文化庁国際著作権室 五頁、コピライト一九九七年四月号「著作権保護の国際的動向について(抄)」文化庁国際著作権室長 岡本薫 七、八頁)では、これら条約締結に至る議論をふまえ「このため、著作物の頒布行為については、『輸入権なき(国際消尽する)頒布権の設定』ということが、将来に向けた国際的秩序として確立されたと言える」とまで言い切っている。輸入権の創設が否定された国際的議論の経過からすると、輸入権なき(国際消尽する)頒布権の設定が国際的秩序として確立されたとの見方さえ文化庁から出ているのであり、少なくとも国内消尽を否定するような考えは一度たりとも取り上げられたことさえないのである。
 このように著作者に頒布権を認めるかどうかの議論は国際的にもなされてきているが、流通過程に無制限に権利を及ぼす頒布権を認めるものはなく、国内消尽さえしない頒布権を主張するのは異説といわざるを得ない。

 (注二)WIPO著作権条約
  第六条〔頒布権〕
   (1) 文学的及び美術的著作物の著作者は、販売又はその他の所有権の移転により、その著作物の原作品又は複製物を公衆に利用可能にすることを許諾する排他的権利を享有する。
   (2) この条約のいかなる規定も、著作物の原作品又はその複製物について、著作者の許諾を得て最初に販売又はその他の所有権の移転が行われた後に(1)の権利が消尽する条件を締約国が定める自由に、影響を与えるものではない。

二、外国法での頒布権とその消尽

 外国では、著作者の権利として頒布権を規定している国と、そうでない国があるが、頒布権を認めている国では頒布の意味を限定したり、第一販売などで頒布権は消尽する法原理(消尽理論やファーストセールドクトリン)を認めている。これは、米国や欧州連合諸国のみにとどまらず、韓国などのアジア諸国や、ロシアなどの旧共産圏諸国も例外でない。
 また、消尽理論やファーストセールドクトリンは、米国、ドイツなどで工業所有権のみならず、著作権を含む知的財産権一般における一般法原理として、明文の規定が設けられる前に、裁判例によって確立された法原理である。

  1、米国

  米国著作権法の頒布権及びその消尽についての規定は次のとおりであ
 る。

  [頒布権又はこれに相当する権利]
   ・著作権法第一〇六条
    この法律に基づく著作権の所有者は、第一〇七条から第一一八条ま
    での規定に従うことを条件として、次に掲げることを行い、又は許
    諾する排他的権利を有する。…
  (3)著作権のある著作物の複製物又はレコードを販売その他の所有権の
    移転又は貸与によって公衆に頒布すること…

  [ファーストセールドクトリン又はこれに相当する法原理]
   ・著作権法第一〇九条
    (a)第一〇六条(3)の規定にかかわらず、この法律に基づいて適法
      に作成された個々の複製物若しくはレコードの所有者又はその
      所有者から許諾を得た者は、著作権者の許諾を得ることなく、
      その複製物若しくはレコードを販売し、又はその占有を処分す
      ることができる。
    (b)(1)(A)(a)項の規定にかかわらず、録音物の著作権者又はコ
          ンピュータ・プログラム(そのようなプログラムを収
          納するいずれのテープ、ディスクその他の媒体をも含
          む)の著作権者及び録音物の場合には録音物に収録さ
          れている音楽の著作物の著作権者の許諾を得ない限
          り、個々のレコードの所有者又はコンピュータ・プロ
          グラム(そのようなプログラムを収納するいずれのテ
          ープ、ディスクその他の媒体をも含む)の個々の複製
          物を占有するいずれの物も、直接又は間接の商業的利
          益を目的として、貸与その他貸与の性質を有するいず
          れかの行為又は業務によって、そのレコード又はコン
          ピュータ・プログラム(そのようなプログラムを収納
          するいずれのテープ、ディスクその他の媒体をも含
          む)の占有権を処分し、又はその処分を許諾すること
          ができない。直前の文のいずれの規定も、非営利の図
          書館又は非営利の教育施設が非営利目的で行うレコー
          ドの貸与には適用されない。コンピュータ・プログラ
          ムの適法に作成された複製物の占有権を非営利の教育
          施設が他の非営利の教育施設又は学部、教職員及び学
          生に移転することは、この(b)項の規定に基づく直接
          又は間接の商業的利益を目的とする貸与を構成しな
          い。
        (B)この(b)項の規定は、次に掲げるコンピュータ・プロ
          グラムには適用されない。
         (i )機械又は製品に収納されているコンピュータ・プロ
           グラムであって、機械又は製品の通常の運転又は使
           用の間に複製されることができないもの
         (ii)ビデオゲームを動かすことを目的とし、かつ、他の
           目的に充当することができる限定目的のコンピュー
           タに収納され、又はそのようなコンピュータと接続
           して使用されるコンピュータ・プログラム
          (c)〈略〉
      (2)〈略〉
      (3)この(b)項の規定は、反トラスト法のいずれの規定にも影
        響しない、〈以下略〉
       大山幸房訳「著作権関係実務提要」(第一法規)

 米国では、頒布の意味自体は第一頒布以後の頒布も含んでいる(旧法では
もともとright to vend(販売権)という表現が使われていた)。また貸与
も意味の上では含んでいる。
 一方、その著作物の複製物の最初の販売以後の頒布をコントロールする権
利は著作権者にないという原則(ファーストセールドクトリン)は、制定法
でこれが確認される前に判例で認められている(Bobbs-Merrill Co. v.
Straus 210 U.S. 339 (1908))。また、ファーストセールドクトリンは「物
理的な物体の所有権と著作権とは別のものであるという原則から演繹される
もの」(Columbia Pictures Indus. v.Redd Horne, Inc.749 F.2d 154
(3d Cir. 1984))「譲渡を制限し取引を制限することに反対する政策に著作
権保護は道を譲るべき」(Blozin, Inc. v. DeLuxe Game Corp.,
268 F.Supp. 416 (S.D.N.Y.1965))などと、理論上当然なものと考えられて
いる。
 しかし、コンピュータ・プログラムとレコードの商業的レンタルについて
は、ファーストセールドクトリンの例外としている。このため商業的レンタ
ルについては元にもどって頒布権が最初の販売以後にも及ぶことになる。
 さらに、コンピュータ・プログラムのうちゲーム専用機用のゲームソフト
は、ファーストセールドクトリンの例外の例外になっている。このため、ゲ
ーム専用機用のゲームソフトのレンタルは著作権侵害にならない。
 なお、一〇九条(b)(3)項は、独占禁止法(反トラスト法)適用にあたっ
ては、ファーストセールドクトリンの例外規定は意味を持たないことを明記
している。

2、欧州連合(EU)

  欧州連合の指令で頒布権及びその消尽に関するものは次のとおりであ
 る。

  ・一九九一年五月一四日のコンピュータプログラムの法的保護に関する
   理事会指令四条
    第五条及び第六条に従うことを条件として、第二条の意味における
   権利者の排他的権利は、次のことをなしまたは許諾する権利を含む。
   (a)(略―複製権)
   (b)(略―翻案権)
   (c)コンピュータ・プログラムのオリジナルまたはその複製物を、形
     態のいかんを問わず公に頒布すること(貸与を含む。)。権利者
     によるまたはその同意を伴うプログラムの複製物の共同体内にお
     ける最初の販売は、共同体内におけるその複製物の頒布権を消尽
     させる(プログラムまたはその複製物のさらなる貸与を支配する
     権利を除く。)。
    駒田泰士訳 著作権情報センター

 欧州連合では、ヨーロッパ経済共同体を設立するローマ条約(一九五八)
が貨物の移動自由の原則を定めており、ヨーロッパ共同体内での、従って当
然ながら各共同体加盟国内でも、最初の販売以後の販売の自由は必須になっ
ている。このことを示す著作権についてヨーロッパ共同体裁判所の判例も複
数ある( Polydor v. Harlequin Record Shops(1982 ECR 329),
Tournier(ECR 2565), Deutsche Grammophon(1971 ECR 487),
Musikvertrieb Membran( 1981, 147 ), EMIElectrola v.Patricia(1989,
ECR 92))。コンピュータプログラムについては、一九九一年の理事会指令で
貸与を除く頒布について消尽原則が明記されている。
 ヨーロッパ共同体委員会は、一九九七年一二月一〇日に「情報社会におけ
る著作権及び関連諸権利の一定の局面での協調についてのヨーロッパ議会及
び理事会指令提案」(Proposal for a European Parllament and Council
Directive on the harmonization of certain aspects of copyright and
related rights in the Information Society)を公表した。この中で、ヨー
ロッパ共同体加盟各国の頒布権と消尽理論の現状について次のように分析し
ている。

 「IV 消尽を含む頒布権
  A 現在の法的枠組
   1 貸与権についての理事会指令は、四つのグループの権利者(実演
     家、放送事業者、レコード製作者、映画製作者)についての頒布
     権(有体物の頒布を許諾し禁止する権利)を既に協調させてい
     る。頒布権についての共同体内での協調は、著作権の保護を受け
     るコンピュータプログラムとデータベースなど一定の種類の著作
     物についても成し遂げられてはいるが、コンピュータプログラム
     に関する指令とデータベースに関する指令でカバーされていない
     著作物についての頒布権は、それぞれの加盟国が異なった体制を
     保っている。例えば、頒布について独立した権利を規定していな
     い加盟国のグループがある。この加盟国グループには、複製権
     が、複製物の利用目的(再利用や再販売さえも含む)をコントロ
     ールする著作者の権利をカバーするというシステムをとっている
     国(例えば、フランス、ベルギー)や、頒布は出版権(right of
     publication)に範囲に入るとする国(例えば、オランダ、アイル
     ランド、北欧諸国)が含まれている。他の多くの加盟国(ドイ
     ツ、オーストリア、スペイン、ギリシャ、イタリー、ポルトガ
     ル、イギリス)は、すべての著作物について、明確に頒布権を定
     めている。

   2 加盟諸国の、著作物に関する頒布権の制限の適用も、その権利の
     規定が明示的なものであろうと黙示的なものであろうと、異なっ
     ている。最も重要な制限は、ファーストセールに際しての消尽と
     いう制限である。一定の国の法律(ベルギー、フランス、ルクセ
     ンブルグ、ポルトガルは例外である)は権利者の承認する著作物
     複製物の最初の国内での販売は、その国に関する頒布権を消尽
     させること(国内消尽)を明示的に規定している。共同体内の貨
     幣移動の自由の原則と特定の知的財産権の保護の調和を睨んだヨ
     ーロッパ共同体裁判所で確立された法理に従えば、国内消尽の場
     合と同様、販売が権利者によってなされるかその承諾の下でなさ
     れることを条件として、共同体内での物品の最初の販売により、
     頒布権は消尽しなければならない。

   3 加盟国の中には、消尽の原則を地域的に限定していない国もあ
     る。その結果、これらの国は、少なくとも一定の場合に、国際消
     尽を認め、これにより、世界中のどこかでの権利者によるかその
     承認のある物品の最初の販売によって、その物品にともなう頒布
     権は消尽することになる。これは、内部市場の運営にとって、ま
     た共同体内の利用者と権利者にとって重大な影響を与えるもので
     あろう。」(原告代理人訳)

  このような分析をふまえた上で、WIPO著作権条約から頒布権と消尽
 の条件の明定が必須となったこと、知的財産権の消尽について加盟国が異
 なる体制をとると、内部市場が円滑に機能しないことなどから、頒布権と
 その消尽について、次のような規定を設ける提案をしている。

  「第四条 頒布権
   1 加盟国は、著作者に、その著作物の原作品とその複製物につい
     て、販売その他あらゆる形態で公衆に頒布する排他的権利を与え
     なければならない。

   2 頒布権は、原作品又はその複製物について、かかる目的物の共同
     体内での最初の販売その他の所有権の移転が権利者によって行わ
     れ又はその同意を伴う場合を除き、共同体内では消尽しない。」
     (原告代理人訳)

  以上の通り、欧州連合では、従来はいくつかの国では不明確な面があ
 り、国際消尽については、これを認める国と認めない国に分かれていた
 が、少なくとも国内消尽と共同体内消尽については、これが認められるこ
 とに関して加盟国のコンセンサスがある。現在、このコンセンサスを明文
 で確認すると共に、国際消尽について加盟国の法制度をそろえるための提
 案がなされている状態である。

  欧州連合主要各国の状況は以下の通りである。

 (一)ドイツ

    ドイツ著作権法の頒布権及びその消尽についての規定は次の通りで
   ある。

   [頒布権又はこれに相当する権利]
   ・著作権法第一五条
    1 著作者はその著作物を有形的に使用することにつき排他的権利
      を有する。その権利は、とりわけ、次に掲げるものを含む。
     (1)複製権(第一六条)
     (2)頒布権(第一七条)
     (3)展示権(第一八条)
   ・著作権法第一七条
    1 頒布権とは、著作物の原作品又は複製物を公衆に提示し、又は
      取引に供する権利をいう。…

   [ファーストセールドクトリン又はこれに相当する法原理]
   ・著作権法第一七条
    …
    2 著作物の原作品又は複製物が、この法律の施行地域において頒
      布の権利を有する者の同意を得て、譲渡の方法によって取引に
      供されたときは、その再頒布は許される。…
   ・著作権法第二七条
    1 著作物の複製物が、第一七条第二項によってその再頒布が許さ
      れるものの賃貸借又は使用貸借については、その賃貸借または
      使用貸借が貸借人又は貸主の営利の目的に資するもの、又は複
      製物が公衆に提唱された施設(文庫、レコード収集又は他の複
      製物の収集)によって賃貸又は貸し出されるときは、著作者に
      対して同等なる報酬が支払われなければならない。報酬請求権
      は、管理団体を通じてのみ行使することができる。
     斉藤博訳「著作権関係実務提要」(第一法規)

    ドイツでは一九〇一年の著作権法で初めて頒布権が認められたが、
   消尽については明文の規定はおかれていなかった。しかし、一九〇二
   年に特許法において消尽理論が判例によって認められ、一九〇六年に
   は、著作権法でも消尽を認める判例が出された。以後ドイツ法上消尽
   理論は「一般法原則」とされている。複製物の所有権によって頒布権
   が及ばなくなること、第一譲渡で著作者は正当な報酬を受ける機会を
   得ていること、権利者の同意のもとでいったん取引におかれた物の再
   頒布は利用者と全体の利益のため自由とすべきことなどがその根拠と
   されている。消尽理論が明文の規定になったのは一九六五年からであ
   る。商業用レンタルについては、報酬請求権のみが認められている。
    なお、レンタルを禁止する表示のあるビデオカセット、レコードな
   どについて、著作権者がレンタルの禁止を求められるかどうかについ
   て、一九八〇年代初頭に複数の下級審判例が出た。ドイツ著作権法が
   「利用権は、地域的、時間的または場所的に限定して許与することが
   できる」(第三三条)と規定していることなどを理由に、レンタルの
   禁止を認めた下級審の判例もあった(一九八二年一月二一日のフラン
   クフルト高裁決定、一九八三年一二月一四日のカールスルーエ高裁判
   決。反対にレンタル禁止を退けたものとしては一九八一年五月一二日
   のハム高裁判決、同年一〇月五日のシュツッツガルト高裁判決、一九
   八三年六月九日のミュンヘン第一地裁判決など。)。しかし、ミュン
   ヘン第一地裁の飛躍上告事件で一九八六年三月六日連邦裁判所は、レ
   コードを譲渡すれば、貸与禁止の表示にかかわらず頒布権は消尽し、
   その後の頒布は自由になることを認めた(ただし第二七条の報酬の規
   定は適用される)。
    参照 桑田三郎「西ドイツ著作権判例における消耗原則の諸相」
       (判タ六二九号二五頁)

 (二)英国

    英国の「著作権、意匠及び特許法」の頒布権及びその消尽に関する
   規定は次の通りである。

   [頒布権又はこれに相当する権利]
   ・著作権、意匠及び特許法第一六条
    (1)著作物の著作者は、この章の以下の規定に従って、連合王国に
      おいて次の行為を行う排他的権利を有する。…
     (b)著作物の複製物を公衆に頒布すること
        (to issue copies of the work to the public)
       (第一八条参照)…

   [ファーストセールドクトリン又はこれに相当する法原理]
   ・著作権、意匠及び特許法第一八条
    …
    (2)この部における著作物の複製物の公衆への頒布(to issue
      copies of the work to the public)への言及は、従前流通し
      ていない複製物を連合王国その他において流通させる行為をい
      い、次の行為を言わない。
     (a)それらの複製物の以後のいずれかの頒布(distribution)、
       販売又は貸与…
      大山幸房訳「著作権関係実務提要」(第一法規)ただし、一部
      原文を挿入した。
    イギリスでは、従来、著作者の権利として頒布権は定められていな
   かった。
    しかし、一九八八年に立法された「著作権・意匠及び特許法」の一
   六条及び一八条は、頒布権(right to issue copies of the work to
   the public著作物の複製物を公に出す権利)を明定したうえ、事後の
   頒布(distribution)や貸与はこのような「頒布権」に該当しないこ
   とを明確にしている。

 (三)フランス

    フランスの「知的所有権法典に関する法律」の頒布権及びその消尽
   についての規定は次の通りである。

    ・第一二二条の六
      第一二二条の六の一1の規定の留保の下で、ソフトウエア作者の
     開発権は以下の行為を行い、または許可することを含む。
     1号 (略―複製権)
     2号 (略―翻訳翻案等)
     3号 ソフトウエアの複製物の一つないし複数を、あらゆる手段
        で、有償無償を問わず、賃貸による場合も含めて、市場に流
        通させること。ただし、ヨーロッパ共同体加盟国域内または
        ヨーロッパ経済圏についての合意に参加した国でソフトウエ
        アの複製物を最初に売却したことは、複製物の将来の賃貸を
        許可する権利を除き、加盟国で複製物を市場に流通させる権
        利を失わせる。

    フランスでは、著作者の権利として頒布権を定めた条項はなかっ
   た。
    ただ複製権には複製物の利用目的を制限する権利が含まれるとする
   判例があった。しかし、この利用目的を制限する権利も、少なくとも
   ヨーロッパ経済共同体を設立するローマ条約(一九五八)が定める貨
   物の移動自由の原則に反してまでは認められないとされていた。
    一九九四年に、ソフトウエア作者に、市場に流通させる権利が明示
   的に認められ、最初の売却で、賃貸を除き、ヨーロッパ共同体加盟国
   の地域内では、この権利が消尽することも明示的に定められた。

 (四)スペイン

    スペインの著作権法
    ・第一九条(頒布)
     (1)「頒布」とは、著作権の原作品または複製物を、販売、貸与
       または貸出等の方法により、公衆に利用可能とすることをい
       う。
     (2)頒布が欧州連合の域内において販売の手段によりなされると
       きは、頒布権は、権利者によるまたはその同意を伴う当該最
       初の販売により、もっぱら当該領域内において行われるその
       後の販売について、消尽する。
      駒田泰士訳 著作権情報センターの外国著作権法令集(二二)

3、他の諸国

 (一)スイス

   [頒布権又はこれに相当する権利]
   ・著作権法第一〇条
     …
    2 著作者は、とりわけ次の権利を有する。
     …
     b著作物の複製物を提供し、譲渡その他の方法で頒布すること。

   [ファーストセールドクトリン又はこれに相当する法原理]
   ・著作権法第一二条 消尽の原則
    1 著作者が作品を譲渡し、又は譲渡に同意したときは、これを再
      譲渡し、又はその他の方法で頒布することができる。
    2 著作者がコンピュータ・プログラムを譲渡し、又は譲渡に同意
      したときは、これを使用し、又は再譲渡することができる。
      …
     斉藤博訳「著作権関係実務提要」(第一法規)より

 (二)ロシア連邦

   [頒布権又はこれに相当する権利]
   ・著作権・著作隣接権法第一六条
    …
    2 著作物の利用に関する排他的権利は、次に掲げる行為を行うか
      又は許諾する権利を意味する。
      …
      販売、貸与その他任意の方法により、著作物の複製物を頒布す
      ること(頒布権)
      …
   ・コンピュータ・プログラム及びデータベースの法的保護に関するロ
    シア連邦法第一〇条コンピュータ・プログラム又はデータベースの
    著作者その他の権利保有者には、次に掲げる行為を行う権利及び行
    うことを許諾する権利が帰属する。
     …
    コンピュータ・プログラム又はデータベースを頒布すること…

   [ファーストセールドクトリン又はこれに相当する法原理]
   ・著作権・著作隣接権法第一六条
    …
    3 適法に発行された著作物の複製物がその販売によって民事上の
      取引に供された場合には、以後の頒布は、著作者の同意及び著
      作者報酬の支払いなしに認められる。
      …
   ・コンピュータ・プログラム及びデータベースの法的保護に関するロ
    シア連邦法第一六条コンピュータ・プログラム又はデータベースの
    複製物の転売又はその所有権その他の物権の他の方法による譲渡
    は、その複製物の最初の販売その他の所有権の譲渡の後は、権利保
    有者の許諾を得ることなくかつ、同人に追加的報酬を支払うことな
    く、これを行うことが認められる。
   垣見隆禎訳 大山幸房校閲 「著作権関係実務提要」(第一法規)

 (三)大韓民国

   [頒布権又はこれに相当する権利]
   ・著作権法第二〇条
    著作者は、著作物の原作品又はその複製物を配布する権利を有す
    る。
   ・著作権法第四三条
     著作物の原作品又はその複製物が配布権者の許諾を得て販売の方
    法で取引に提供された場合は、これを引き続き配布することができ
    る。

   [ファーストセールドクトリン又はこれに相当する法原理]
   ・著作権法第一七条
    …
    2 著作物の原作品又は複製物が、この法律の施行地域において頒
      布の権利を有する者の同意を得て、譲渡の方法によって取引に
      供されたときは、その再頒布は許される。
      …
     著作権資料協会訳 知的所有権六法(ぎょうせい)

三、わが国の消尽

 適法に複製し、適法に頒布された「著作物の複製物」の再頒布については、法文上明示の規定を欠いているものの、「権利消耗の原則」又は「権利用尽(消尽)の原則」と称される知的財産権法の一般法原則により、侵害性が否定される(但し、後述のとおり、用尽が法定されていると解する立場もある。後掲田村説参照)。すなわち、知的財産権は、一旦適法に取引に置かれた物に関しては、その後の第三者の行為につき効力が及ばないとされているのである。なお、最近の立法である「半導体集積回路の回路配置に関する法律」は、この一般法原則である「権利消耗の原則」又は「権利用尽(消尽)の原則」を立法的に確認し、同法一二条三項には、その旨の明文が設けられている。

1、判例法上の用尽(消尽)理論の承認

 わが国においては、特許法の分野における用尽(消尽)理論は、大正時代から判例により広く承認されている(大審院大正元年一〇月九日判決・大審院民事判決録一八・八二七)。さらに、最高裁判所は、平成九年七月一日最高裁判所第三小法廷判決(BBS事件上告審判決)(民集五一巻六号二二九九頁)において、用尽理論を承認すべき根拠を詳細に説示した。

(一)BBS事件の最高裁判決は、原審が特許権の消尽を認めた結論を維持しながらも、敢えて特許権の消尽について以下のとおり述べ、この消尽問題について正面からこれを肯認している。
 「 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有するものとされているところ(特許法六八条参照)、物の発明についていえば、特許発明に係る物を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等は、特許発明の実施に該当するものとされている(同法二条三項一号参照)。そうすると、特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者から当該特許発明に係る製品(以下「特許製品」という。)の譲渡を受けた者が、業として、自らこれを使用し、又はこれを第三者に再譲渡する行為や、譲受人から特許製品を譲り受けた第三者が、業として、これを使用し、又は更に他者に譲渡し若しくは貸し渡す行為等も、形式的にいえば、特許発明の実施に該当し、特許権を侵害するようにみえる。しかし、特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである。けだし、(1)特許法による発明の保護は社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものであるところ、(2)一般に譲渡においては、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得するものであり、特許製品が市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものであって、仮に、特許製品について譲渡等を行う都度特許権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、特許製品の円滑な流通が妨げられて、かえって特許権者自身の利益を害する結果を来し、ひいては「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」(特許法一条参照)という特許法の目的にも反することになり、(3)他方、特許権者は、特許製品を自ら譲渡するに当たって特許発明の公開の対価を含めた譲渡代金を取得し、特許発明の実施を許諾するに当たって実施料を取得するのであるから、特許発明の公開の代償を確保する機会は保障されているものということができ、特許権者又は実施権者から譲渡された特許製品について、特許権者が流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。」

(二)意思説の排除

 知的財産権法上、権利消尽が知的財産権法上の基本原則であることは、多くの学説が認めてきたところであるが、権利消尽の根拠理論については、権利者の黙示の意思に基づく、あるいは権利者の合理的意思解釈に基づくと説明する立場(以下「意思説」と総称する。)があった。被告は、時にゲームソフトのパッケージ上に「中古販売禁止」を明記するなどして、かかる意思説による権利消尽の主張に対する反論の足掛かりを残している。
 しかし、右の最高裁判決は、意思説を排除したものであるから、かかる努力は徒労である。則ち、同判決は、「商品の自由かつ円滑な流通」を理由として、国内消尽を肯定したのであって、意思説に基づく説明を採用していない。さらに、意思説に立脚した場合には、権利消尽の有無について画一的な理解をすることができないため、各権利者の個別の意思が問題になる。つまり意思説に立脚するならば、商品(著作物)の流通段階において権利者の個別の意思を確認することが必要となり、そのため最高裁判決が重視する「商品の自由かつ円滑な流通」を達成できないことになる。
 右の最高裁判決は、前記「三、1、(一)」の引用部分にある国内消尽についての判示に続いて、国際消尽に議論を移し、
 「 しかしながら、我が国の特許権者が国外において特許製品を譲渡した場合には、直ちに右と同列に論ずることはできない。」
 とした上で、
 「 譲受人から特許製品を譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては、譲受人との間で右の旨を合意した上特許製品にこれを明確に表示した場合を除いて、当該製品について我が国において特許権を行使することは許されないものと解するのが相当である。」
 と判示し、権利者の意思が契約上に留保され、かつその表示がない限り、国際消尽するものと解して、意思説的な留保を容認しているのである。従って、右の最高裁判決は、国際消尽については意思説を採用したが、国内消尽の根拠としては意思説を明示的に排除していると理解すべきものなのである。
 明文の規定こそないものの(「半導体集積回路の回路配置に関する法律」を除く)、消尽理論は、知的財産権法上、既に最高裁判例によって確立された法理論である。著作権法において消尽理論を正面から適用又は否定した判決は見当たらないが、これは著作権において消尽理論が妥当しないことを意味するものではない。著作権に消尽理論が及ばないとか、著作権に消尽理論の例外を認めるべきと解すべき理由は何ら存しない。

2、著作権(頒布権)の用尽について

(一)BBS事件上告審判決の理論の適用

 このBBS事件上告審判決は、原審が権利消尽理論を適用したことから、「適法な上告理由に当たらない」として、上告棄却の判決が可能であったにも関わらず、敢えて上記のとおり特許権における権利消尽の原則を確認するとともに、そのように解さなければならない理論的根拠を判示している点で、極めて重要な意義を有する判決である。この判決が示す権利消尽の根拠が妥当する限り、特許権以外の知的財産権においても同様に権利消尽を認めることを要求するものと解すべきである。そこで、このBBS事件最高裁判決が示す権利消尽理論の根拠に基づき、消尽が著作権に妥当するものであることを、順次論証する。

 (1) 利益の調和
BBS事件最高裁判決は、権利消尽の理由の第一に、
 「 (1)特許法による発明の保護は社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものであるところ、」
と述べる。著作権が絶対的な権利ではありえないことは、特許権の場合と何らの相違はなく、著作権法の解釈に当たって権利者と社会公共の利益との調和が要求されることには、著作権と特許権の間に区別はない。従って、著作権においても以下のように述べることができる。
 「 著作権法による著作物の保護は社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものであるところ、」
 (2) 商品の自由かつ円滑な流通
続けて、同判決は、
 「 (2)一般に譲渡においては、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得するものであり、特許製品が市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものであって、仮に、特許製品について譲渡等を行う都度特許権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、特許製品の円滑な流通が妨げられて、かえって特許権者自身の利益を害する結果を来し、ひいては「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」(特許法一条参照)という特許法の目的にも反することになり」
と述べている。商品の自由かつ円滑な流通の必要性については、特許製品の場合であろうと、著作物又は著作物を含む製品であろうと全く差はない。むしろ、科学技術の発展により著作物の範囲及びその流通が著しく拡大しつつある現代社会においては、著作物の自由かつ円滑な流通の必要は、従来にもまして強くなっている。仮に著作物について譲渡等を行う都度著作権者の許諾を要するということになれば、市場における著作物の自由な流通が阻害され、その円滑な流通を妨げるであろう(同旨、田村(有斐閣)一三八頁)。その結果、かえって著作権者自身の利益を害する結果を来すことは勿論、ひいては、「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする」(著作権法一条参照)という著作権法の目的にも反することになるのである。この点でも、特許権か著作権かで有意な差異を見い出すことは困難である。
従って、著作権に即して言えば、以下のとおり述べることができる。
 「 (2)一般に譲渡においては、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得するものであり、著作権を含む製品が市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が目的物につき著作権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものであって、仮に、著作権を含む製品について譲渡等を行う都度著作権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、著作権を含む製品の円滑な流通が妨げられて、かえって著作権者自身の利益を害する結果を来し、ひいては『文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする』(著作権法一条参照)という著作権法の目的にも反することになり」
 (3) 代償の確保の機会
最後に、最高裁判決は、三番目の理由として、
 「 (3)他方、特許権者は、特許製品を自ら譲渡するに当たって特許発明の公開の対価を含めた譲渡代金を取得し、特許発明の実施を許諾するに当たって実施料を取得するのであるから、特許発明の公開の代償を確保する機会は保障されているものということができ、特許権者又は実施権者から譲渡された特許製品について、特許権者が流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。」
と説明する。つまり、知的財産権に対する対価、代償を確保する機会が保証されている限り、権利者が二重、三重に利得を得ることを認めるべきでない、という価値判断を示しているのである。かかる価値判断は、著作権の場合にも全く同様に妥当するものであって、著作権者に対してだけ流通過程において二重、三重に利得を得ることを認めるべき合理的理由はないのである。この意味で、著作権の場合には、前記の判示を、以下のとおり述べることが可能である。
 「 (3)他方、著作権者は、著作権を含む製品を自ら譲渡するに当たって著作物の複製物の利用の対価を含めた譲渡代金を取得し、著作物の利用を許諾するに当たって許諾料を取得するのであるから、著作物の利用許諾の代償を確保する機会は保障されているものということができ、著作権者又は許諾を受けた者から譲渡された著作物を含む製品について、著作権者が流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。」

3、学説の状況

 従来から、国内消尽を肯定する立場が有力であったが、前記BBS事件の下級審判決が出るに及んで著作権の国際用尽が話題になり、その前提である頒布権の国内用尽を肯定する(無制限の頒布権を否定する)文献は急増している。

(一)木村豊(文化庁文化部著作権課課長補佐)氏は、「当面の著作権法の改正問題について・著作権審議会第一小委員会の審議結果」(NBL二九一号・一六頁以下)(昭和五九年)において、その一九頁に以下のとおり述べている。
 「 映画についてはその複製物の公衆への貸与について頒布権が及んでいることは先に述べたところである。ベルヌ条約上も条約上の義務として頒布権は認めなければならないこととなっている。
しかし、劇場用映画および放送用映画の配給の実態に着目して立法されている現行法の映画の頒布権の内容に関しては、ビデオ・ソフトが大量に市販されるなどその流通の実態が現行法の制定当時とは著しく異なっている面があるところから、市販物の購入者の所有権との調整を図り、円滑な流通を阻害しないよう配慮する必要が生じつつあると考えられる。たとえば、市販されているビデオ・ソフトを購入した者がそれを右ビデオ屋に売る場合にまで頒布権が及ぶこととなっているのはいきすぎではないかという点等が問題となる。したがって、たとえば、映画についても複製物の譲渡後の再譲渡は自由とするが、公衆への貸与については権利を及ぼすものとするなどの措置を講ずることが考えられる。」

(二)角田政芳「著作権の用尽について―特許権の用尽との相違を中心として―」(『民法と著作権法の諸問題―半田正夫教授環暦記念論集』平成五年七一七頁)は、以下のように論じ、映画の著作物(複製物)の再販売については頒布権の用尽があると明言しているのである。
 「 ドイツにおける著作権の用尽は、再頒布も含むが、貸与によることはなく、判例において分かれているとはいえ、有形的利用による頒布権について生じるものとされる。
それは、用尽の原則が自由な商品取引という公共の利益と著作者の利益調整のためのものであり、有形的な商品の存在を前提とする。 このことは、わが国の著作権の用尽についても、何ら異なることはないものと思われる。」(同書七三三頁)
 「 知的財産権法の一般原則ともいわれる用尽理論は、各権利間においてその適用範囲が異なっており、著作権の用尽問題も特許権におけると同様に、その内容ないし限界について充分な検討が必要である。
本稿では、著作権と特許権における用尽理論の対比を試みたが、著作権の用尽にはいわゆる無形的利用権(例えば放送権)の用尽があり得るが、わが著作権法下では、頒布権の用尽が認められるのは映画の著作物(複製物)の再版売についてだけと解される(法第一一三条第一項第二号参照)。」(同書七三七頁)

(三)田村善之助教授は、並行輸入と知的財産権(ジュリスト一〇六四号四五頁、五〇頁、平成七年)において、映画の著作物に関して以下のように述べる。
 「 我が国の著作権法は著作物の複製に関して排他権を設定するのみで、頒布権のある映画の著作物の場合(二六条一項)を除き、著作権者は適法に複製、翻案された物の譲渡を禁止する権利を有していない。ただし、違法に複製、翻案された物に関してはこれを頒布(公衆に譲渡等する行為をいう。二条一項二〇号)する行為が著作権侵害とされている(一一三条一項二号)。したがって、著作権の場合には、法文により適法に作成された場合と違法に作成された場合とで、頒布に関する取扱いを違えていることになる。作成のところで、その後に転々流通することを考えて対価を取得しておけということになるから、用尽理論が法定されていると理解してよい。」
田村助教授は、同書(ジュリスト一〇六四号四五頁、五三頁)において、一〇一匹ワンチャン事件に言及しつつ、映画の頒布権の趣旨、必要性に対する疑問から、ビデオソフトに頒布権を及ぼす必要のないことを、以下のように説いている。
 「 並行輸入された映画の著作物を公衆に譲渡する行為は頒布権侵害となるか否かが問題となる。…中略…。ここでは、頒布権というものが別個、認められている趣旨をどのように考えるのかということが決め手となる。一方の極には、複製権とは別個に頒布権が認められている以上、上記貸与権に関する理屈と同様に考えて著作権を肯定する向きもあろう。しかし、頒布権が認められたのは、一般の映画館で上映される映画に関する配給権を著作権法に制度化するという趣旨であったとされる。立法当時、想定されていなかったビデオソフトに関してまで、その趣旨を貫徹する必要はないといえるのではなかろうか。そもそも、配給権なるものを保障するためには、他の著作物と同様に違法複製物の頒布さえ押さえておく法制で足りたのではないか、別途、頒布権なるものを設置する必要が本当にあったのか、ということが問われなければならないであろう。」
なお、田村助教授は平成一〇年九月に刊行された『著作権法概説』(有斐閣初版一一九頁)において、以下のように述べ、著作権法上も権利用尽理論が法定されていることを確認している。
 「 著作権法一一三条一項二号も、適法に複製された場合と違法に複製された場合とで頒布に関する取扱いを違えている。著作権者としては、作成のところで、その後に流通することを考えて対価を取得しておけということになるから、用尽理論が法定されていると理解してよい(WIPO著作権条約六条参照)。」

(四)小泉直樹(神戸大学助教授)は、先にも引用したが「並行輸入をめぐる経済と法(中)」(NBL五六五号・二八頁)(平成七年)で、以下のように述べている。
 「 本判決(一〇一匹ワンチャン事件判決:引用者註)が、ビデオカセットの再販売についても頒布権が及ぶと解しているかは、ベーベーエス事件と異なり国内頒布権の用尽についての主張、立証がなされていないため、明らかではないが、少なくとも国内における販売後の頒布については、特許権における用尽の類推によるか、または黙示の許諾を認め、権利対象外と考えておくべきであろう。」

(五)美勢克彦「商標権、特許権、著作権による輸入差止について―いわゆる並行輸入に対する権利濫用論からのアプローチ」(『知的財産権法・民商法論叢』二五四頁)は、以下のように述べて、ビデオカセット、ゲームカセットについては、頒布権は認められるにしても、再譲渡行為については及ばないとする。
 「 しかし、固有の映画の著作物以外のビデオカセット、ゲームカセットに頒布権が及ぶとしても、再譲渡以降の頒布にまで及ぶかは別に考えなければならない。
この点について学説は賛否両論に分かれている。
しかし、映画と異なり一般家庭にまで入り込んでいるビデオカセット、ゲームカセットの再譲渡にまで頒布権が及ぶとすることは社会的混乱を招くことは必定であり、法解釈として疑問である。」
なお、右の美勢論文は、再譲渡以降の頒布に頒布権が及ぶかにつき否定論を採るが、学説には「賛否両論」あるとし、肯定論として加戸守行『著作権法逐条講議改訂新版』一五九頁を指摘する。しかし、以下に示すとおり、再譲渡以降の頒布に頒布権を及ばせた場合の加戸氏の問題認識は、反対説(消尽説)と何らの違いはない。加戸氏の論述の主眼は、消尽なき頒布権を認めた場合の現行法の問題点を指摘し、明確化のため法改正を主張することにあると理解すべきなのである。
 「 ところが、頒布権があるといいますと問題なのは、ビデオ・カセット等の市販ソフトは一般の家庭にまで普及してまいっており、…当然に転売・再譲渡が予想されますから、転々譲渡のたびに著作権者であるソフトメーカー等のライセンスが必要ということになります。…従来の映画配給権を前提とした頒布権を市販のビデオ・カセット等にそのまま認めていくことについては、将来のビデオ・ソフトの利用発達度あるいは利用形態によっては、法改正を要することになる問題ではないかと考えます。」

4、まとめ

 以上述べたとおり、一旦適法に複製された複製物が適法に譲渡された場合には、以後、当該複製物に関する限り、原権利者の頒布権をそのまま認めることが不適切であることは、判例法上も、学説上も異論はないところである。したがって、複製物が適法に譲渡された場合には頒布権は用尽し、以後自由に譲渡することができると解すべきことは、およそ疑いのないところである。

以上 


中古ソフト問題・東京訴訟「原告側準備書面」
 第一、本件各ゲームソフトと「映画の著作物」
 第二、頒布権が認められる映画の著作物か
 第三、頒布権の限界―消尽について

 
  『東京訴訟』