中古ソフト問題・東京訴訟
第一準備書面についての要約内容


(記者会見において、特に説明のあった事項と主な参考文献を記す)
 

1 本件各ゲームソフトと「映画の著作物」
(1) はじめに 〜「映画の著作物」とはなにか
 「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む」(著作権法二条三項)

 ある表現物が「映画の著作物」に当るかどうかは
 1. 表現方法の要件、2. 存在形式の要件、3. 内容の要件
を具備しているかを検討する。

1. 表現方法の要件とは、ある表現物の表現が「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法」でなされていることであり、
2. 存在形式の要件とは、その表現が、「物に固定されている」ことであり、
3. 内容の要件とは、その表現が、「思想又は感情を創作的に表現した」ものであって、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であること。


 ゲームソフトが「映画の著作物」であるかどうかについて、上記三要件を満たしているかが問題となる。

(2) 表現方法の要件
(3) 固定性の要件(存在形式の要件)
 「物に固定されている」とは「著作物が何らかの方法により物に結びつくことにより、同一性を保ちながら存続し、且つ著作物を再現することが可能な状態」をいう。つまり、再生機にかければ、常に同じ連続影像が再現される状態を指すと解される。コンピュータ・ゲームに代表されるインタラクティブな表現物はどの連続影像が、どのような組み合わせで、どの順番でモニター等に映し出されるのかは、プレイヤーの操作によって変化する。したがって「物に固定」されているとは到底言えない。

(4) 「動画=映画」というテーゼの終焉
 『青い海のまち みさわ』未使用映画フィルムの著作権帰属事件の東京高等裁判所判示(平成5年)及びこれを支持した最高裁判示(平成8年)により、「編集作業を経ていないフィルムは、映画の著作物とは認められない。」とされた。つまり、パックマン・アーケード事件判決で示された「映画の著作物」の基準は否定されたのである。

【資料】
馬場巌「判例紹介『青い海のまち みさわ』未使用映画フィルムの著作権帰属事件」(コピライト434号1997年42頁)
 よって、ゲームの画面は「プレイのたびにプレイヤーの選択によって影像が変化し、(中略)一種の素材としての影像の提供を行っているのであり、未編集のフィルムが存在している状況と類似する場合と捉えるべきであろう。(後略)」

【資料】
吉田大輔「映画の著作物概念に関する一考察−三沢市市勢映画事件判決最高裁判決を契機として−」(「紋谷暢男教授還暦記念・知的財産法の現在的課題」1998年757頁)
(5) 著作物とプログラム著作物
 ビデオゲームについて「映画の著作物」と「プログラムの著作物」の二面的な捉え方として、いずれかに関する規定を便宜的に適用するのは不当である。

2 頒布権が認められる映画の著作物か
(1) 立法趣旨について
 映画の著作物の特殊性…映画の著作物にのみ頒布権を認めるという例外的な取扱いが認められたのは、映画の著作物の特殊性、とりわけその配給制度の保護要請が認められた結果である。

【資料】
加戸守行「転換期における著作権制度の課題と展望」(コピライト25周年記念特集号昭和60年3月9頁)
 頒布権の範囲がどうあるべきかを実質的に解釈してみるに、劇場用映画は上映による収益を予定していることから、流通を支配できる権利を著作権者に付与する合理性があるが、そもそも複製物が多数製造販売され、公衆への譲渡が予定されているものにまで頒布権を認めた場合、他の著作物についての著作権の保護範囲と比較して、その保護内容につき均衡を失することは明らかである。

【資料】
辰巳直彦「知的財産権と並行輸入−BBS特許並行輸入事件及び101匹ワンチャンビデオカセット並行輸入事件を契機として−」(甲南法学1995年338頁)
(2) パックマン事件等の判例の射程
 テレビゲーム等に関する判例がいずれもテレビゲームを実質的に検討して頒布権のある映画と認めたものとは言えないこと、特に頒布権を認めたものはないことを論証する。
 又、これらの判例のうちゲームソフト自体が問題となったものはいずれも悪質な複製権侵害事案であり、映画の著作物該当性は当該事案における違法性を導くために採用された解釈にすぎない。

(3) 101匹ワンチャン並行輸入事件判決について
 映画の著作物の頒布権に言及した裁判例だが、本判決の事案は、文書配布行為が問題になってものであり、ビデオカセットの販売行為についての頒布権に基づく差止請求権自体が問題となったものではない。
 本判決に対する評釈によると「著作権法の分野では、(中略)国内的消尽についてもいまだ充分な議論が尽くされている状況にはないが、少なくとも、映画のビデオカセットがメーカーから卸売業者、小売業者、消費者と流通する場合にその各段階の取引に著作権の効力が及び、著作権者の許諾を得なければならないとするは法常識に反するものと思われる。」

【資料】
宍戸充「映画のビデオカセットの並行輸入品の販売行為が映画の著作権者の有する頒布権を侵害するとされた事例」(判例タイムズ882号1995)
3 頒布権の限界−消尽について
(1) 頒布権に関する国際的動向
ベルヌ条約における頒布権
…… 1948年のブラッセル改正時に映画の著作物に関してのみ頒布権を認めている。又、頒布権は第一頒布に適用させるのみで、その後の再頒布には及ばない。頒布権は上映を目的としない頒布権には及ばない。
WIPO著作権条約における頒布権(1996年)
…… 一般的頒布権は認めているが、少なくとも頒布権は国内消尽するものとされており、各国は場合により国内消尽に加え国際消尽を定めることも可能となっている。


【資料】
「解説 WIPO新条約について」文化庁国際著作権室(コピライト1997年1月号5頁)
「著作権保護の国際的動向について(抄)」 文化庁国際著作権室長 岡本薫(コピライト1197年4月号7、8頁)
(2) 外国法での頒布権とその消尽
 各国の頒布権とその消尽について述べているので、その主なものを以下にあげる。


米国…… ファーストセールドクトリン(著作物の複製物の最初の販売以後の頒布をコントロールする権利は著作権者にはないという原則)は判例で認められており、理論上も当然なものと考えられている。
欧州連合
(EU)… 少なくとも国内消尽と共同体消尽については、これが認められることに関して加盟国のコンセンサスがある。
ドイツ… 1902年に特許法において消尽理論が判例によって認められ、1906年には著作権法でも消尽を認める判例が出された。以後ドイツ法上消尽理論は「一般法原則」とされている。
英国…… 1988年、頒布権を明示した上、事後の頒布や貸与はこのような「頒布権」に該当しないことを明確にしている。


(3) わが国の消尽
 一旦、適法に複製された複製物が適法に譲渡された場合には、以後、当該複製物に関する限り、原権利者の頒布権をそのまま認めることが不適切である。したがって複製物が適法に譲渡された場合は頒布権は消尽され、以後は自由に譲渡できると解すべきである。
 これに関して、頒布権の国内消尽を肯定する(無制限の頒布権を否定する)文献は急増している。

★次回 裁判期日  12月22日(火)13:10〜


 

 
  『東京訴訟』